有人潜水調査船「しんかい6500」の役割

日本の深海調査をけん引してきたのが有人潜水調査船「しんかい6500」であり、その名の通り水深6500mまで潜航が可能である。

「しんかい6500」外観

「しんかい6500」のように6500mまで潜れる有人潜水調査船は世界にも数隻しかない。そんな貴重な「しんかい6500」は、日本列島付近の海溝(日本海溝、伊豆・小笠原海溝、南西諸島海溝など)を中心に世界中の深海を調査してきた。1989年(平成元年)に完成し、2017年(平成29年)には通算1500回目の潜航を達成した。

「しんかい6500」を建造するのにかかった費用は開発費を含めて125億円である。もちろんこの調査船は1隻しかない。

深海は太陽の光が届かない場所である。太陽の光が届くのは水深200mくらいまでであり、水深6500mは暗闇の世界が広がる。深海ではとても高い水圧がかかり、海底からはブラックスモーカーと呼ばれる鉛・亜鉛・銅・鉄などの硫化物を多く含む黒色の熱水が噴き上げる。

「しんかい6500」構造

その過酷な状況にも耐えられるように設計された「しんかい6500」には高度な技術が詰まっている。例えば、乗組員の命を守るキャビン(船室)は軽くて丈夫なチタン合金の球体である。球体は水圧に最も強い形であり、試行錯誤の結果、誤差わずか0.5mm以下のほぼ真ん丸な球体を作り上げた。

そんな「しんかい6500」には数多くの役割・ミッションがあり、プレートの沈み込みなど地球内部の動きの調査、それに伴う地震メカニズムの解明、謎に包まれた深海生物の調査と保全、気候や潮流など環境変動の記録と解読、レアメタルやメタンハイドレートのような海底資源の調査と利用などが挙げられる。

この「しんかい6500」に乗り込んで調査や作業を行う人も特殊な船内生活を送ることになる。キャビンの直径は約2mで、乗り込めるのは3人のみ。海中に潜れる潜航時間は8時間と決まっており、船内に覗き窓は3つ。

「しんかい6500」船内

乗組員はとても狭い空間で作業をすることになるが、「しんかい6500」に乗る際の必需品ともいえるのがオムツである。トイレもないため紙オムツを着用したり、尿を固める袋を使用したりしている。

その一方で、安全のため船内に持ち込むことが禁止されている物もある。それは油分が含まれるリップクリームで、引火の可能性があるためである。また、静電気を起こす可能性があるフリースのような衣類も持ち込み禁止である。

これは船内に純度100%の酸素が入ったボンベがあるためで、火災の原因となる物は持ち込みが禁止されている。他にも引火を防ぐため、整髪料や化粧品も持ち込みや使用が禁止されている。重要な役割を担い、過酷な世界である深海を潜航する「しんかい6500」にはそんな厳しい規則がある。

リンクしんかい6500Wikipedia

2021/4/2

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カテゴリー「生活・科学

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