谷川岳の遭難者を救った「伝書鳩」

日本における山での遭難件数は2018年(平成30年)の1年間で2661件であった。登山ブームもあり山で遭難する人の数は年々増加している。

そんな中、世界で最も遭難死者が多い山が日本にある。それは群馬県と新潟県の県境にある「谷川岳」である。標高は1977mで、日本百名山の一つである。

谷川岳

標高は2000mに満たない山だが、複雑な地形や切り立った岸壁、激しい天候の変化などにより遭難事故が多発する山である。2012年(平成24年)までの遭難事故による死者の数は、エベレストなど8000m級の14座の合計が637人であるのに対し、谷川岳だけで805人となっている。

遭難死者数が世界で最も多い山であり、これは「世界の山のワースト記録」としてギネス世界記録にも記載されている。これらのことから、谷川岳は「魔の山」「人喰い山」「死の山」とも呼ばれる。

そんな谷川岳では過去に登山者の命を守るために、無料で「伝書鳩」が貸し出されていた。これは1960年(昭和35年)頃まで行われていた画期的な取り組みで、当時、通信手段として使われていた伝書鳩を登山道の入り口で貸し出した。

伝書鳩

1958年(昭和33年)、谷川岳の遭難者を救うために日本鳩通信協会が、当時の郵政大臣だった田中角栄に協力を要請し、谷川岳の入り口付近に鳩小屋を開設した。そして、全国から集めた約300羽の鳩を常駐させた。

谷川岳の登山者は誰でも無料で籠(かご)に入れた鳩を連れて行くことができ、万一の時は鳩を放ち、遭難信号「SOS」を発信することができた。また、山岳救助隊も遭難者が出た時には鳩を大量に借りて山に入り、鳩を使って通信文を送り、迅速な救助活動を実現した。

その活躍が認められ、開設された同年の9月には登山者の命を救った7羽の鳩に郵政大臣賞が贈られた。その後、無線通信の普及により伝書鳩はその使命を終えたが、山岳救助活動の一翼を担った歴史は今も語り継がれている。

リンクWikipediaコトバンク警察庁

2020/2/4

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カテゴリー「生き物

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