電子レンジは冷凍食品などが温まると「チン」と鳴る。そして、現在では料理を電子レンジで温めることを「チンする」と表現する。
電子レンジは料理が仕上がったことを知らせる時に「チン」という音が鳴る。「チン」と鳴る家庭用の電子レンジは、早川電機工業(現:シャープ)から発売された商品だった。この「チン」という音は「自転車のベルの音」を真似たもので、当時の電子レンジの中には実際に自転車のベルが搭載されていた。
1964年(昭和39年)の東京オリンピックに沸いていた頃、冷めてしまった料理を温める「電子レンジ」という調理機器が普及し始めていた。この頃の日本は高度経済成長期であり、カラーテレビやエアコンが登場し、家電ブームが到来していた。
日本における最初の電子レンジは、1961年(昭和36年)に国際電気(現:日立国際電気)が発売した業務用の電子レンジ「DO-2273B」である。翌1962年(昭和37年)には早川電機工業が業務用で量産品の電子レンジ「R-10」(54万円)を発売した。
当時の電子レンジは一部のレストランや鉄道の食堂車などでのみ使用されていた。そんな中で「料理が出来上がったのに気付かず、冷めてしまった」というクレームの電話が入った。電子レンジは短時間で温まるのが特徴だが、その当時はすぐに温まるとは思わず、出来上がったと思う頃には料理が冷めていた。そんなクレームが「チン」と鳴る電子レンジのきっかけとなった。
早川電機工業の電子レンジ開発メンバーの一人だった若手社員の藤原康宏(ふじわら やすひろ)さんは、クレームを受けた後、温めの終了の合図を付けることを思い付いた。当時の電子レンジが使われていたのは周りの音が大きい厨房であり、そんな中でも聞こえる音を探した。
そして、藤原さんを含む開発メンバーがサイクリングに出かけた時、注意を促すために鳴らした「自転車のベルの音」がヒントになり、1967年(昭和42年)に実際に自転車のベルを搭載し、「チン」と鳴る電子レンジが誕生した。
この「チン」と鳴る電子レンジは大ヒット商品となり、家庭用の電子レンジにも「チン」と鳴る機能が搭載された。同社は世界で一番早く、電子レンジを1億台売り上げた。そして、人々は電子レンジで料理を温めることを「チンする」と呼ぶようになった。
ちなみに、当時の早川電機工業の本社は大阪府大阪市にあり、電子レンジに自転車のベルを搭載することを思い付いたのは藤井寺市をサイクリングしていた時だった。そして、その自転車のベルは、大阪市の隣町で自転車産業の街でもある堺市の自転車屋から取り寄せ、電子レンジに搭載された。また、同社は1966年(昭和41年)に日本で初めて電子レンジにターンテーブルを採用した会社でもある。
2020/5/29
カテゴリー「生活・科学」