牛肉のカルビやマグロのトロなど脂がのっている肉や魚を食べると人は美味しいと感じる。しかし、肉の脂身だけを食べてもあまり美味しいとは感じない。
人間の味覚は基本味(きほんあじ/きほんみ)として甘味・酸味・塩味・苦味・うま味の5つに分けられるが、脂はこれらの味には分類されない。しかし、脂は人の味覚に良い意味で影響を及ぼすことが分かっている。
脂が口の中に入ることにより、食べ物にしっとりとした食感を与え、さらに食べ物の味を増強させる。脂は口の中に入るとその一部が唾液により脂肪酸とグリセリンに分解される。その脂肪酸には食べ物が持つ甘味やうま味を増強させる働きがある。
人の舌の表面には「舌乳頭(ぜつにゅうとう)」という小さな突起物があり、この舌乳頭の中に味を脳に伝える「味蕾(みらい)」という細胞が数多く存在する。この味蕾がある舌の上に脂がのった食べ物がのると、脂が分解されてできた脂肪酸を感知し、食べ物の味を伝える能力が格段にアップする。
つまり、脂肪酸には明確な味はないが、食べ物が持つ甘味やうま味を増強して脳に伝える働きがあるため、脂がのった食べ物を美味しいと感じる。
例えば、トーストを何もつけずに食べる時と、トーストにバターを塗って食べる時とでは、バターを塗った方が美味しいと感じる。バターは成分の80%以上が乳脂肪であり、口の中に入った時にバターの脂の一部が脂肪酸となり、味蕾の受容体を刺激してトースト自体の美味しさを増強している。
また、脂がのった食べ物を人が好む理由の一つに、脂は人にとって大きなエネルギー源であることが挙げられる。人が生きていく上で必要な三大栄養素は炭水化物・たんぱく質・脂質である。
炭水化物とたんぱく質は1gあたり4kcalのエネルギーになるが、脂である脂質は1gあたり9kcalと2倍以上である。つまり、脂は効率の良いエネルギー源であり、身体はそんな脂を必要としている。このような理由から人は脂がのった食べ物を美味しいと感じる。
2020/10/11
カテゴリー「食べ物」