日本人ひとり当たりが1年間でカレーを食べる回数は平均73回であり、カレーは国民食であると言える。しかし、カレーが日本の国民食になったのは食品偽装事件がきっかけだった。
カレーを日本に広めた食品偽装事件の裏には、モノ作りをめぐる日本人の様々な思いがあった。昭和初期の日本ではカレーは高級料理の一つで、めったに庶民の口には入らない特別なメニューだった。
当時のレストランではイギリスのC&B社(Crosse & Blackwell)の高級カレー粉が主に使われていた。C&B社のカレー粉は高額にもかかわらず、圧倒的なシェアを誇っていた。国産のカレー粉も販売されていたが、「カレー粉はイギリス産」というイメージが強く、C&B社の3分の2という安い価格でも売れなかった。
ところが1931年(昭和6年)に、ある密造団が見た目が一緒ならバレないだろうとC&B社の缶に安い国産のカレー粉を詰めて販売するという食品偽装事件が発覚した。この事件は当時大きなニュースとなり、C&B社のカレー粉は流通がストップした。すると事態は思わぬ展開になった。
コックたちが仕方なく国産のカレー粉でカレーを作ったところ、「国産でも美味しい」と評判になった。当時から日本の食品メーカーの技術は非常に高く、C&B社のカレー粉を真似て作った国産のカレー粉は海外産と遜色のない味を実現していた。
偽装事件がきっかけで国産のカレー粉が「安くて美味しい」と日本中に知れ渡った。手頃な値段で食べられるようになるとカレーライスは人気が爆発し、日本の国民食へと成長していった。カレーが日本中に広まったのは食品偽装事件で国産のカレー粉の品質が認められたためだった。
2018/12/5
カテゴリー「食べ物」