「近畿」と「関西」は同じような意味合いを持つ言葉だが、その違いを説明するのは意外と難しい。その言葉の成り立ちから確認してみる。
「近畿」と「関西」は言葉の成り立ちが全く違う。先に生まれた言葉は「近畿」である。「近畿」という言葉は、7世紀後半の律令制度で定められた「五畿七道」(ごきしちどう)という地域の分け方が元になっている。
「五畿」とは、「畿内」ともいい、現在の奈良県で当時の都があった「大和」のほか、「山城」「河内」「摂津」「和泉」の5つの地域を指す。これらは現在の大阪府・京都府・兵庫県・奈良県とその周辺に該当する。
「畿」という言葉は、「都」や「王宮」という意味である。「五畿」を中心として、その「近く」という意味で「近畿」と呼ばれた。「近畿」は現在の言葉では「首都圏」と同様の意味を持つ言葉である。
そして、「五畿」の東側に3つの関所が設置された。この関所の東側を「関所の東」という意味で「関東」と呼んだ。「五畿」に住む都の人々が、都から遠い東側にある辺境の地という意味合いで「関東」という言葉を使った。その当時に「関西」という言葉はほぼ使われていなかった。
その後、1869年(明治2年)に政府が京都から東京に移されたことで、都と関所の位置関係が逆転する。当時の重要な関所は「箱根」にあったため、そこより西側を「関所の西」という意味で「関西」と呼ぶようになった。今度は「東京」が都になり、都から遠い西側にある地方という意味合いで「関西」という言葉が使われた。
このようにして「近畿」と「関西」という言葉は生まれた。現在、「近畿」と「関西」の範囲についての法律上の明確な定義はない。そのため、地域的な差はほとんどなく、どちらも大阪府・京都府・兵庫県・滋賀県・奈良県・和歌山県の2府4県とする場合と、三重県も含めて2府5県とする場合がある。
「近畿」や「関西」に三重県が入るかどうかが曖昧だが、例えば、主要な百科事典では三重県は「近畿地方」に分類される。一方、NHK天気予報では三重県は「近畿地方」ではなく「東海地方」であり、一概には言えない。
また、現在では「近畿」は国内用、「関西」は海外用の言葉として使用されるという違いがある。それは「近畿」(kinki)という言葉が英語で「ねじれた」「異常な」「変態の」などの意味を持つ「kinky」に発音が似ていることが理由である。
第二次世界大戦後、プロ野球の球団に「グレートリング」というチームがあり、「近畿グレートリング」とも呼ばれた。この「近畿」が日本にいた外国人には「変態の」という意味合いに聞こえ、笑われることもあったという。これが原因かは定かではないが、「近畿グレートリング」はわずか1年で「南海ホークス」に球団名を変更した。
近年、海外の人の誤解を避けるため、「近畿」(Kinki)という表現を避ける動きがある。例えば、経済産業省の機関である「近畿経済産業局」は、日本語では「近畿」だが英語では「Kinki」を使わず、「Kansai Bureau of Economy, Trade and Industry」と「Kansai」を使っている。これは外国の人と接する機会の多い機関であるため、1997年(平成9年)に「Kinki」から「Kansai」に変更した経緯がある。
また、1925年(大正14年)に創立された伝統ある「近畿大学」も「Kinki」を避け、英語名は「Kindai University」となっている。これは2016年(平成28年)の国際学部の設置に合わせて、英語表記を「Kinki」から略称の「Kindai」(近大)に変更したものである。日本語に直訳すると「近大大学」となってしまうが、「Kinki University」では、留学生に避けられる可能性などがあり、大学の国際化を進めるに当たって誤解されるのを防ぐ目的で変更された。
このように「近畿」(Kinki)はもともと「首都圏」というよい意味の言葉であったが、海外の人にはおかしな印象に感じられるため、代わりに「関西」(Kansai)という言葉が海外向けに使われるようになった。現在では、このような使い分けが「近畿」と「関西」の違いの一つと言える。
リンク:Wikipedia、NHK天気予報、近畿経済産業局、近畿大学
2019/11/24
カテゴリー「地理・地名」