スーツの襟に穴がある理由

スーツの襟の部分には穴があいている。現在この穴はバッジをつけるために使用することもあるが、もともと別の理由で穴があいていた。

スーツ
スーツ

スーツは背広(せびろ)とも呼ばれ、その襟の穴には花を挿す文化があった。現在ではスーツの襟の穴に花を挿す人はほとんどいないが、その秘密を知るためにスーツの歴史をさかのぼってみる。

「スーツ(suit)」はもともと「軍服(military uniform)」に由来する服であり、1700年代のヨーロッパで軍服として着用されていた。現在のスーツの襟を立ててみると当時の軍服とほぼ同じ形になる。スーツと軍服のボタンの位置は同じであり、問題のスーツの襟穴は軍服の第1ボタンのところに当たる。

その後、1700年代後半に軍服をもとにした新しい服が誕生した。この服は「フロックコート(frock coat)」と呼ばれ、貴族は宮廷でこのフロックコートを着用した。下の画像は20世紀初頭のフロックコートの絵である。

フロックコート
フロックコート

フロックコートは軍服の詰め襟部分を寝かせ、現在のスーツの「上襟(カラー)」と「返り襟(ラペル)」の原型が出来上がった。その結果、第1ボタンは必要なくなるが、ボタンの穴は残っていた。

そして、19世紀にこのフロックコートが更に改良され、「モーニングコート(morning dress)」と「燕尾服(えんびふく:tailcoat)」が誕生した。モーニングコートは昼間に着る正装で、格式の高い式典で着用される。一方、燕尾服は夜用の正装で、社交界用の服のことである。

これら2種類の服の特徴は後ろ側の裾が長いことであり、お尻を隠すのが当時の貴族文化のマナーとされていた。フロックコートをもとに作られたこれらの服は、現在のスーツとほぼ同じ襟であった。

さらに、これらの服はお尻の長い部分が邪魔になるという理由でカットされ、現在のスーツに近い「ラウンジスーツ(lounge suit)」に変化した。つまり、「軍服」→「フロックコート」→「モーニングコート・燕尾服」→「ラウンジスーツ」のように変化し、襟は完全に寝てしまい、第1ボタンは全く不要なものになっていた。

しかし、スーツはもともと軍服であり、イギリスの仕立て屋がこれを忘れないようにと襟の穴を残したとされる。そして、この穴は結果として花を挿すのに便利であった。

1700年代後半のフロックコート時代には、貴族がこの穴に花を挿していた。当時の貴族は珍しい新種の花を自慢するために襟の穴に花を挿していたとされ、貴族の間でこの文化が流行していた。

さらに、1800年代以降、イギリスのヴィクトリア女王が結婚式でアルバート公の襟の穴に花を挿したことで、庶民にもこの文化が広まったとされる。現在でもヨーロッパでは、王室の式典などでスーツの襟の穴に花を挿している姿を見ることが出来る。

このように現在のスーツは軍服をもとにした服であり、ボタンとして使われなくなった襟の穴が、花を挿すために利用されてきたという歴史がある。

リンクWikipediaコトバンク

2020/2/14

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カテゴリー「歴史・文化

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