名字に木(杉・柳・松)がつく理由

日本人には杉田さんや柳沢さん、松本さんのように、杉、柳、松、藤、栗、梅、桑、梶、桐、楠など、樹木がつく名字の人が多くいる。

これらの樹木は日本人の身近にあり、とても大事な木だったからこそ名字になったという経緯がある。そんな中で、今回は杉(すぎ)、柳(やなぎ)、松(まつ)がつく名字について、その理由について確認してみる。

木

杉がつく名字について

杉がつく名字には杉山、杉本、杉浦、杉田、杉原、杉村、小杉、杉野、上杉などがある。杉は革命を起こした樹木である。それは「杉の桶(おけ)」である。室町時代以前、水などを運ぶ容器は焼き物の壺(つぼ)や瓶(かめ)を使っていた。

しかし、これらにはとても重いという弱点があった。さらに落とすと割れてしまう。この問題を解決したのが主に杉で作られた桶である。杉の桶は軽くて、割れる恐れがない。

これにより人々は海や川の水を楽に運ぶことが出来るようになった。杉は運搬の革命を起こしたのである。桶に杉が利用された理由として、杉は年輪に沿って縦に真っ直ぐ割ることが出来たことが挙げられる。

「杉」の語源は「真っ直ぐな木(まっぐな)」に由来する説があり、その名前の通り、真っ直ぐ伸びる樹木である。この性質により水の漏れない、軽い桶を作ることが出来た。また、杉の桶を使い、日本酒や醤油、味噌などが造られ、和食を支える存在でもある。その他、家の建材、船の材料など幅広く使われた。

豊かに杉の生える山の麓にいた人が杉山さん、杉の山を見渡す田んぼの近くにいた人は杉田さんなどの名字がつけられ、昔の人たちは杉が持つ力に感謝して暮らしていた。

柳がつく名字について

柳がつく名字には柳沢、青柳、柳田、小柳、柳、高柳、柳原、柳川、柳瀬などがある。柳はそのしなやかさが特徴だが、柳は多くの日本人を救った樹木である。

日本の川は一気に増水し、氾濫していた。人々は洪水から生活を守るために土を盛った「堤(つつみ)」を築いた。しかし、洪水で土が流されてしまい、これを防ぐために柳が川の近くに植えられた。

柳の根は丈夫で抜けづらく、柳は水中でも育つ珍しい植物で、川の水が増えても土を押さえ、堤を守ってくれた。戦国時代に武田信玄が築いたとされる「信玄堤(しんげんつつみ)」にも柳が植えられていた。また、江戸時代には川の堤に柳を植えることが法令で定められたほどである。

川の堤防を造る時、柳を使った伝統的な工法は「柳枝工(りゅうしこう)」と呼ばれる。これは柳の枝を組んだ枠に石を敷き詰め、その間に柳の枝を打ち込む工法である。その打ち込んだ柳が成長すると、その根が土や石を巻き込み、丈夫な堤防を造ることが出来た。

このように柳は人々の命を守ってきた。柳がつく名字も柳沢や柳田、柳川、柳瀬など水に関係する名前が多いのも上記のように川の堤などに利用されていたためである。

松がつく名字について

松がつく名字には松本、松田、松井、松尾、小松、松下、松浦、松村、松原などがある。松がつく名字は北は北海道から南は沖縄まで全国的に多いのが特徴である。

全国で重要とされた松は日本人の生活を支えていた。その一つが「松明(たいまつ)」である。その字の通り、昔から松に火をつけて明かりとして利用した。その歴史は古く、奈良時代には軍の明かりには松を使う法令があったほどである。

松が明かりとして利用される理由は「松脂(まつやに)」があるためである。「松の脂(あぶら)」と書くようにその成分は脂で、松にはその脂が根元や幹、葉っぱに至るまで大量に詰まっている。松脂が含まれた松明に火をつけると、簡単に火がつき、さらに長持ちする。

名字に多く使われる松はとても便利な照明具だった。さらに戦国時代の昔から日本刀を作る時に松が使われた。それは松の炭「松炭(まつずみ)」である。松炭は構造的に大きな空洞を持つのが特徴で、松炭を使った炉の温度は日本刀に最適な1300度の高温になった。

松の特性のおかげでしなやかで強靭な日本刀が生まれた。その他、松は栄養のない海岸の砂地でも育つという特徴がある。そのため、海岸の防災林などに利用され、日本人の暮らしを強風や砂、津波から守ってきた。このような歴史から松のつく名字の人が全国的に多くいる。

2020/2/11

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カテゴリー「歴史・文化

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