悪いことをし始める時は「手を染める(てをそめる)」、一方で悪いことをやめる時は「手を洗う」ではなく「足を洗う(あしをあらう)」と表現する。
これら二つの言葉は逆の意味で使われるが、「手を染める」と「足を洗う」は元々の言葉の成り立ちが全く異なる。
「手を染める」の言葉の由来は諸説あるが、元は「手を初める」と書いていたという説がある。これは「書き初め(かきぞめ)」や「お食い初め(おくいぞめ)」の「初め」と同じ使われ方で、「はじめ」という意味である。
そして、「手を染める」は元々「悪いことを始める」という意味に限定されておらず、「物事を始める」という意味だった。「全てのこと」に対して使っていた言葉だったが、その後、染まった手はなかなか綺麗にならない様子から、一度手を染めるとなかなか抜け出せない「悪いこと」に限定して使われるようになったと言われている。
このように「手を染める」の由来は不確かな部分もあるが、一方で「足を洗う」はその由来が比較的はっきりとしている。
「足を洗う」という言葉は僧侶が修行した後の「足洗い(あしあらい)」に由来すると言われている。「足洗い」とは、修行をした僧侶が裸足で外を歩いた後、泥で汚れた足を洗って建物に入ることを意味する。
この「足洗い」は単純に足を綺麗にする意味だけではなく、汚れた足を洗うことで俗世間の煩悩を洗い清めるという意味も含まれる。そこから、「足を洗う」は修行僧が足を洗って煩悩を断ち切る様子から、「これまでの生活や関係を断ち切ること」という意味で使われるようになった。
このように「手を染める」と「足を洗う」はその言葉の由来が全く異なるが、「手を染める」の「悪いことをし始める」という意味と、「足を洗う」の「悪いことをやめる」という意味が、偶然にもちょうど反対の内容になっている。
リンク:NHK放送文化研究所、コトバンク
2021/4/24
カテゴリー「語源・由来」