「お地蔵さん」は「地蔵菩薩(じぞうぼさつ)」のことであり、親しみを込めて「お地蔵さん」や「お地蔵様」と呼ばれる。仏教の信仰対象である菩薩の一尊。
その「お地蔵さん」は「閻魔大王(えんまだいおう)」と同一の存在であるという考え方がある。仏教の開祖で「お釈迦様」とも呼ばれる「釈迦(しゃか)」は約2500年前に亡くなり、その釈迦の代わりに戻って来たのが地蔵菩薩である。その地蔵菩薩が閻魔大王のことだと信じられるようになった。
この話は仏教学者・浄土宗僧侶の望月信亨(もちづき しんこう、1869~1948年)が編纂(へんさん)し、仏教学の基本書となった『望月仏教大辞典』に記載があり、あの世で地獄行きか極楽行きかの審判について書かれた「十王(じゅうおう)」の項目に「閻魔王は地蔵菩薩」という記述がある。
「地蔵」は古代のサンスクリット語で「インドの大地の恵みをつかさどる神」を意味し、「菩薩」は「仏教で悟りを得るために修行する者」を意味する。つまり、インドで大地の命を育む力を持つ神が仏教に取り入れられて「地蔵菩薩」が誕生した。
地蔵菩薩は全ての人を救う修行を課せられ、仏教がインドから中国に伝わると地蔵菩薩は閻魔大王と重ね合わされるようになった。全ての人を救う地蔵菩薩は、あの世でも人々を救ってくれると考えられ、次第にあの世にいる怖い印象のある閻魔大王と同一視されるようになった。
中国の宋の時代の経典には既に「地蔵菩薩が閻魔大王である」という記述がある。元々はヒンドゥー教で冥界の王として死者の生前の罪を裁く神だった閻魔大王は、仏教で救いの神として取り入れられ、その救いの姿が全ての人を救う地蔵菩薩の化身として重ね合わされるようになった。
このような思想は日本にも平安時代末期に伝わった。現世だけでなく地獄でも人々を救うとされる地蔵菩薩(お地蔵さん)は、人々を監視し裁く閻魔大王としての一面も持っているというわけである。
2021/9/6
カテゴリー「歴史・文化」