パイロットの万年筆「エリートS」は1968年(昭和43年)に定価2000円で発売され、大ヒットした文房具である。
1968年は昭和最後のミステリーとも言われる「三億円事件」が起きた年である。そんな年に東京に本社を置く当時のパイロット萬年筆株式会社(現:株式会社パイロットコーポレーション)から万年筆「エリートS」が発売された。
「エリートS」はエリートシリーズのショートタイプで、キャップを反転して装着することでスタンダードサイズ並みになるため携帯に便利だった。短くなるショートタイプはスーツやワイシャツの胸ポケットにしまいやすく、「エリートS」は大ヒット商品となった。
また、タレント・放送作家の大橋巨泉(おおはし きょせん、1934~2016年、当時35歳)のアドリブ台詞「みじかびの きゃぷりきとれば すぎちょびれ すぎかきすらの はっぱふみふみ。」で記憶されるテレビCMも有名で、「はっぱふみふみ」という意味不明な言葉は当時の流行語にもなった。
「エリートS」が発売された1960年代は万年筆が文房具の王者で、当時は万年筆を持つことがステータスであり、入学祝いや就職祝いでも大人気だった。と言うのも、当時は公文書への記入は万年筆が主流であり、「万年筆は大人になったら持つもの」という考えがあった。
「エリートS」の当時のパンフレットには「字に個性が でてきたら 自分で選ぶ エリートS」や「モテるやつが もつペン!! 書き味バツグン」「もつやつが モテるペン!!」などの文言を確認することができる。
その後、1970年代にはボールペンも公文書に使用可能となり、ボールペンの品質向上や圧倒的な安さ、扱いやすさなどからボールペンが広く普及した。これに伴い、万年筆は生産量が激減し、「エリートS」も1980年(昭和55年)に廃番となった。
後に「エリートS」を復刻した万年筆「エリート95S」が2013年(平成25年)6月に発売された。本体重量は15gで、ワイシャツのポケットに差しても重さを感じさせない。ボディデザインは「エリートS」の持つ古き良き昭和テイストを踏襲し、色は伝統の黒に加え、新たにディープレッドも用意された。
2021/9/27
カテゴリー「歴史・文化」