人間はボタンを見ると押すものだと思い、手や指で押してしまう。日常生活の中では、エレベーターのボタンや信号機の歩行者用の押しボタンなどがある。
目の前にボタンがあると人はボタンを押してしまう。人は物がもつ特徴を見るだけで、意識することなく動作することができる。これを心理学では「アフォーダンス理論」(affordance theory)という。
「affordance」という言葉は、アメリカの知覚心理学者ジェームズ・ギブソン(James Gibson、1904~1979年)による造語で、「提供する」「与える」という意味の「afford」から造られた専門用語である。
私たちの身の回りには、このアフォーダンスが溢れている。一例を挙げると、照明のスイッチ、車のハンドル、ハサミの握る部分、コーヒーカップの取っ手、電話の受話器、水道の蛇口の取っ手、傘の柄の部分などがある。
例えば、人はコーヒーカップを見た時、カップに付いた取っ手の部分を手を開いてつかむ動作をする。この時、人は手の開き方や力の入れ方を意識せずにつかめる。同様に、ティッシュペーパーを指でつまんで取る時も自然と手が動く。また、ドアノブを握る時も意識せずにその形に合わせて握り方を変えている。アフォーダンス理論とは、これらの自然な動作を説明する考え方である。
理性が発達途中の赤ちゃんの場合、ガラガラを持てば振って音を鳴らして遊び、ボタンを見れば繰り返し押して遊ぶ。赤ちゃんは周囲にあるアフォーダンスを、手当たり次第に試しながら、どのような動作をするか自分で学習している。幼児用の玩具の中には、ボタンやハンドルなどが数多く付いたアフォーダンスがつまったものもある。これは遊びながら一つずつ動作を学ぶことができる。
アフォーダンス理論を利用したものは街の中にも溢れている。例えば、駅の構内などにあるゴミ箱の受け口は、新聞・雑誌用は長方形、ビン・缶用は円形になっており、ゴミを分別して捨てやすいよう工夫がされている。
人はボタンを見ると押してしまうのは、アフォーダンス理論によるものである。また、その理由として答えを出すとすれば、ボタン自体が人に押すという行動を誘っているとも言える。
2019/11/5
カテゴリー「生活・科学」