浦島太郎の「玉手箱」とは何か

おとぎ話の「浦島太郎」には、軽々しく開けてはいけない「玉手箱(たまてばこ)」という箱が登場する。この玉手箱とは一体何なのか。

浦島太郎

「浦島太郎」の物語といえば、浦島太郎は助けた亀に乗り、竜宮城を訪れる。帰ろうとした時、乙姫から「開けてはいけない」と念を押されつつ「玉手箱」を渡される。

帰り着くと、竜宮城で過ごした時間より遥かに長い年月が経っており、失意の余り玉手箱を開けてしまう。すると、中から白い煙が発生し、浦島は白髪の老人になるというお話である。

玉手箱

この物語に出てくる「玉手箱」とは、もともと化粧道具を入れるための箱であり、現在でいう「化粧ポーチ」に当たる。玉手箱は物語の中だけに出てくる架空の品物ではなく、実際に使われていたものである。

玉手箱は奈良時代ごろから使われ始めたとされる。京都府伊根町には浦島太郎を祀る「浦嶋神社」という神社があり、「玉手箱」が残されている。神社の創建は平安時代の825年(天長2年)とされ、浦島太郎の物語にちなんで、室町時代に奉納された玉手箱がある。

その玉手箱の中には、化粧筆や櫛(くし)、お守りが収められている。このような箱はもともと「櫛笥(くしげ)」と呼ばれ、櫛を入れる箱だったが、時代とともに化粧道具全般を入れる箱になった。さらに、庶民の間に広まった際に「手箱(てばこ)」と呼ばれるようになった。

玉手箱の「玉」とは、大切な宝物という意味であり、「玉手箱」は大切なものをしまっておく箱のことである。当時の化粧道具はとても貴重なもので、女性にとって宝物と言えるものだった。

ところで、乙姫は玉手箱に何を入れて浦島太郎に渡したのか。それは浦島太郎の「魂」である。おとぎ話の「浦島太郎」ともとになった物語は少し違い、もともとは浦島太郎ときれいな異界の女性が恋に落ちて、素晴らしい時間を過ごすという恋愛小説だった。

浦島は亀を釣り上げ、逃がしてやると、その亀は美しい女性に姿を変えた。二人は竜宮城で幸せに暮らすが、3年が経ったある日、浦島は故郷が心配になり、一度帰りたいと申し出る。竜宮城での3年間は人間界での300年に当たり、そのまま帰すと浦島は一気に300歳の年をとり死んでしまう。

そこで、乙姫は浦島の魂を大切な宝物を入れる「玉手箱」に閉じ込めて渡した。これは魂さえ時間から守れば、肉体も守られるという考えである。浦島は誰も知り合いのいない300年後の世界に戻り、寂しさの余り、乙姫に会いたくなり玉手箱を開けてしまう。すると、浦島は老人になるのではなく、一気にかき消えてしまう。

もともとの浦島太郎のお話は、人間の過ごしている時間とは違う、もう一つ別の時間が流れているという時間の観念を日本で初めて取り入れた物語だった。

このように、「玉手箱」とは化粧道具のような大切なものを入れるための箱だった。ちなみに、現在のようなおとぎ話の「浦島太郎」になったのは明治時代である。児童文学書や教科書に載せる際に男女の恋の部分を省くことで、現在のような「浦島太郎」の物語になった。

リンクWikipedia

2019/12/6

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カテゴリー「歴史・文化

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