「五里霧中(ごりむちゅう)」とは、五里にもわたる深い霧(きり)の中で方角が分からない状態になることを意味する。
転じて、物事の状況や手掛かりをつかめず、すっかり迷ってしまい、方針や見通しが立たずに困ること。また、そのような状態を意味する。その他にも、事情がはっきりしない中、手探りで何かをする意味でも用いられる。
この「五里霧中」という言葉の区切りは「五里・霧中」ではなく、「五里霧・中」であり、「五里霧の中」という意味である。この言葉は中国の歴史書『後漢書(ごかんじょ)』の中にある「張楷伝(ちょうかいでん)」の故事に由来する。
中国の後漢(25~220年)において、張楷(ちょうかい)という優れた儒学者がいた。彼の評判を聞きつけた人から、国の役人である官吏(かんり)になってほしいと何度も誘われるが、張楷はそれを嫌い、山の中へ隠居してしまう。
張楷は隠居した後も、気に入らない人とは会おうともしなかった。実は彼は生まれつき道術を好み、嫌な人が訪ねてくると五里四方に及ぶ霧を発生させて隠れた。そこから、この霧は「五里霧」と呼ばれ、「五里霧の中」という意味で「五里霧中」という言葉が生まれた。
当時の中国で一里は約400mだったとされ、五里霧は約2km四方にも及んだ。その深い五里霧の中では前後左右が全く見えず、方角も分からない状態だった。なお、このような由来から「五里夢中」は間違った表記であり、「五里霧中」に「夢中」という意味は含まれない。
2021/10/16
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